ロータス エランの紹介

歴史的考察

 1960年代はじめ、イギリスのロータスと言う小さな自動車会社が倒産の危機に瀕していました。それは、エランくんの兄の”エリート”くんが、その名のとおり”優秀”でしたが放蕩ものだったからです。父親のアンソニー=コーリン=ブルース=チャップマンさん( ACBC ロータス社の社章に残されています。以下、コーリンお父さん)は、もうちょっとよく稼ぐ弟を作る必要がありました。
 エランくんは安い作りで兄をも凌ぐ性能を要求され、ロータス社を救うため、1963年に生まれてきました。この二人乗りのエランの生産期間は、1973年までの約10年間です。後に、FF 機構のエランが製造されています。
 ロータス社は、この孝行息子のおかげで大成功を収めて行きます。日本企業では、トヨタ、イスズ、コマツが友好的な関係にあります。

シリーズ構成

 エランくんは5回の脱皮をしています。

シリーズ
特徴
シリーズ 1 オープンボディーのみです。窓枠がないので格好良いです。プレミアがついて少し高価です。テールランプは丸二つです。
シリーズ 2 オープンボディーのみです。ダッシュボードが大きくなってグローブボックスが付きました。テールランプは楕円形です。
シリーズ 3 クローズドボディーも出来ました。トランクリッドの形状が改善され、雨漏りしにくくなりました。オープンでは窓枠が残ります。パワーウインドーになりました。後期ではフライホイールのオイルシールが改善されました。室内のドアハンドルやスイッチ類はクラシカルなトグルタイプです。
シリーズ 4 リアーフェンダーのホイールアーチが拡大され、太いタイヤ( 155 - 13 )がはけます。テールランプは四角です。スイッチがロッカータイプになりました。 nomi 号はこのシリーズです。
スプリント 格好はシリーズ 4 と同じです。ツートンカラーが目印です。エンジンは最強の”ビッグバルブ”126馬力です。

<シリーズ 1>

S1-  S1-

( S-1 :サッシレス  S-1 :丸いテールランプ )

S1-  S1-

( S-1 :トランクリッド S-1 : メーターパネル)

S1-  S1-

(オイルフィラーキャップ)

 なべちゃん提供の非常にレアーなシリーズ1世代のオイルフィラーキャップです。

S1-

(ラジエター キャップ)

 これまたなべちゃん提供の非常にレアーなシリーズ1世代のAC製のラジエター キャップです。

<シリーズ 2>

S2-Front  S2-Rear

( S-2 : フロント S-2 : リアー)

 テールランプが楕円に変更されています。スリークなボディーラインです。

<シリーズ 3>

S3-ドアサッシ  S3-テールランプ

(A-1 : S 3 DHC ドアサッシとホイールアーチ A-2 :テールランプ )

 トランクのデザインが変更されています。ドアサッシが残ります。

S3-ドアハンドル  S3-スイッチ

( A-3 : ドアハンドル A-4 : 室内のスイッチ類)

 スイッチ類はシリーズ 3 までがクラシカルなトグルタイプです。管理人 nomi はシリーズ 4 以後のロッカータイプよりこちらの方が好きです。

<シリーズ 4>

S4-  S4-

( S-4 :テールライト S-4 : リアーフェンダー)

 テールランプが四角です。リアー フェンダーが拡大されています。

<管理人 注>
 シリーズ 1 はもへへさん、シリーズ 2 はらん○さん、シリーズ 3 は黄色エランさんの愛車です。シリーズ 4 は nomi 号です。

ロータスの車には type number が振られています。

シリーズオープン DHCクローズド FHC
シリーズ 1 
26
設定なし
シリーズ 2 
26
設定なし
シリーズ 3 
45
36
シリーズ 4 
45
36
スプリント 
45
36

 nomi 号は、シリーズ 4 の FHC なので type 36 です。当ホームページの別名 ロータス type 36 の由来です。このほかに 95 台のみ作製されたレース仕様の type 26R や四人乗りの プラスツー type 50 (よく +2 と表示されています。)があります。

Plus 2

( Plus 2 写真提供は D.I.Y.親爺さん

 DHC : dropped head coupe 、FHC : fixed head coupe の略です。一般的にはドアのサイドサッシがないデザインはコンバーチブル(またはロードスター)と呼ばれ、サイドサッシがあると DHC と呼ばれるそうです。従って、厳密には、シリーズ 1 、 2 のオープン( type 26 )はコンバーチブル(またはロードスター)、シリーズ 3 以降のオープン( type 45 )が DHC ですが、あまり区別せず DHC としているようです。
 エランのボディーデザインは、type number の流れからも分かるように、type 26 (オープン)→ type 36 (クローズド)→ type 45 (オープン)と発展しています。

エンジン

 名機 ロータス ツインカム エンジン を搭載しています。専門的にはOHVエンジンをDOHC化した、いわゆる、2バルブDOHCエンジンです。ブロックはフォード製(116 E)でヘッドのみロータス社が開発しました。この時代のロータス社には、コンプリートのエンジンを開発する能力はありませんでした。フォード社がスポーツカーの市場に参入するため、”コルチナ ロータス”用のエンジンの開発をロータス社に依頼する形でプロジェクトがすすみました。トヨタの 2 - TG (1970年代)やイスズ FR ジェミニのツインカムエンジン(1980年代)は、このエンジンを模範にしています。排気量 約1600 cc。ノーマル 105 馬力、SE 115 馬力、スプリント 126 馬力 (排ガス規制仕様 113 馬力)。

シャーシとサスペンション

 シャーシも、有名なY字型バックボーンフレームです。次世代のロータス ヨーロッパにも良く似たフレームが使われています。トヨタ2000GT(1965年発表)はこれを模範にしています。フロントサスペンションはレースカーでよく見るダブルウイッシュボーンです。リアーサスペンションはコーリンお父さんが開発した、これも有名な、”チャップマン ストラット”形式です。コイルスプリングとダンパーが一体となってストラットを形成して上下動を制御し、台形のロアアームにより前後左右の動きを制御するとともに、その長さを十分に取ることによりサスペンション全体のストロークをたっぷり取った独立懸架です。ドライブシャフトはアッパーアームともみなされます。今でも優秀な機構です。ブレーキは四輪ともディスクです。
 このようにすばらしいスペックの車が、40年以上も前に設計されたとは驚きです。国産スポーツカーではフェアレディ 1500 ( SP 310 )がエランと同じ1963年に発表されています。

エリートのチャップマンストラット  エランのチャップマンストラット

( A : エリートと B : エランのリアーサスペンション )

 一口にチャップマンストラット形式と言ってもエリートとエランではかなり違いがあります。エランのそれはエリートでの欠点を改良したものと言えます。

エランのこれから

 形容詞の”有名な”は、名車の証だと思います。約9000台(ロータス社自身も正確な生産台数を把握していないそうです。)作られたエランくんは、それぞれのご主人様と幸せに暮らしていると思います。その気になれば今でも部品の供給は豊富で、新車同様に作り直すこともできます。我がエランは永遠に不滅なのです。

参考文献

 このページの記載の元文献を以下にまとめました。エランのレストアに役立った参考文献全体はお役立ち情報のページに Bibliography としてまとめています。御参照下さい。

  1. Lotus elan the complete story : Mike Taylor : The Crowood Press Ltd : 1990 .
  2. オートジャンブル Vol 24 : 立風書房 : 1998 .
  3. Lotus : The Elite, Elan, Europa : Chris Harvey : The Oxford Illastrated Press Ltd : 1983 .
  4. Lotus Elan Coupe, Convertible ; Plus 2 : Ian Ward : Osprey Publishing Ltd : 1984 .
  5. Lotus Elan and Europa : John Bolster : Motor Racing Publications Ltd : 1980 .
  6. Lotus Twin-Cam Engine : Miles Wilkins : Osprey Publishing Ltd : 1988 .
  7. Lotus Elan : Duncan Wherrett : Osprey Publishing Ltd : 1993 .
  8. The Lotus Book Series Two : William Taylor : Coterie Press Ltd : 1998 .
  9. The Lotus 1978 心に残る名車の本 シリーズ 5 : (株)企画室NEKO : (株)企画室NEKO : 1978 .
  10. Lotus NEKO HISTORIC CAR BOOKS 1 : 笹本健次 : (株)ネコ・パブリッシング : 1984 .
  11. Lotus 世界の名車 13 : いのうえ こーいち : (株)保育社 : 1986 .
  12. Lotus WORLD CAR GUIDE 8 : 笹本健次 : (株)ネコ・パブリッシング : 1993 .
  13. モーターファン グラフィティ 海外メイクス特集 3 ロータス: 鈴木脩己 : 三栄書房 : 1980 .
  14. カーマガジン 増刊 スポーツカー大図鑑 : 鈴木 誠男 : (株)ネコ・パブリッシング : 1996 .
  15. カーマガジン メモリーズ カー・マガジンを彩ったロータス 徹底収録 : 笹本健次 : (株)ネコ・パブリッシング : 2000 .
  16. オートジャンブル キャブレター・メンテナンス&セッティング・ファイル : 野澤一幸 : 立風書房 : 2002 .
  17. THE ORIGINAL LOTUS ELAN : Paul Robinshaw & Christopher Ross : Motor Racing Publications Limited : 1989 .
  18. Lotus Elan Workshop Manual : Lotus Cars Limited : Part No. 36 T 327 : 1970.
  19. Lotus Elan Service Parts List : Lotus Cars Limited : Part No. 36 T 325H : 1971.
  20. Lotus Elan 1962 - 1974 Workshop Manual 日本語翻訳版 : Autobooks Team of Writers and Illustrators : Vintage Publications : 1994.
  21. Lotus Elan 1963 - 1972 Brooklands Books Collection No. 2 : R.M. Clarke : Brooklands Books Distribution Ltd : ?.

文献  文献-2

(管理人 nomi の蔵書)

 エランに限らずロータスの車についての研究は、謎が多いのに比例して楽しい作業です。頼りになる本のほとんどが絶版なので苦労します。管理人 nomi は、本ホームページを皆さんとの情報交換の場と考えています。ロータス type 36 BBS が楽しく盛り上がると幸せです。

文献-3 文献-4

(管理人 nomi の蔵書----追加)

付録-1) エランの生産台数の不思議

 ”約 9000 台”と記載しましたが、前述の文献や、カーマガジンを中心とする雑誌の検索により、様々な説があることが判明しました。
 まず、参考文献 5 で 12224 台と推定しています。参考文献 10 では、恐らく参考文献 5 を受けて全生産台数を 12224 台とかなり多目に報告しており、シリーズ1から3までの合計で 7895 台、シリーズ4は 2976 台、これとは別にスプリントが 1353 台としています。
 次に、参考文献 11 (P.57)では、全体の生産台数に言及があり、9000 台弱としています。また、P.112にはシリーズ1の生産台数を約 850 台としています。次に述べる参考文献 15 のシリーズ1の生産台数と約 50 台の差があります。管理人 nomi は、シリーズ1の 26R が約 50 台生産されているので、これを含む場合とそうでない場合の差である可能性が高いと考えています。
 最後に、最新の参考文献 15 によると、同系列の参考文献 14 の流れを汲んでいるのか、シリーズ1を 900 台、シリーズ2を 1250 台、シリーズ3を 2650 台、シリーズ4を 2976 台ないし 3000 台、スプリントを 900 台ないし 1353 台と推定し、全生産台数は 8676 台ないし 9153 台としています。
 今のところ、管理人 nomi は、参考文献 15 の説が最も信頼性が高いと思っていますが、今後は海外の文献にも検索の範囲を広げて検討を続けたいと考えています。

付録-2) ウエーバー キャブレターの不思議

 上記のエンジンの項目に入るかと思いますが、nomi号のメカをお願いしている”なべちゃん”に教わったウエーバー キャブレターに関するトリビアです。
 シリーズ1から時代が進むにつれてキャブレターも同じではなく少しずつ変化しています。

<第一世代>

DCOE2  DCOE2

( DCOE2)

 非常に微妙な違いですが、写真の矢印にある様に、この部分に補強と思われる斜めの部分があるのが最も大きな違いです。ミーハー的で恐縮で、それほど大きな意味はないかも知れませんが、有名な浮谷東次郎のレーシングエランはこのキャブが使われているのがオリジナルのはずですが、一方のキャブは後述の新しいタイプに交換されているそうです。キャブが交換されたいきさつを含め興味深いところです。

<第二世代>

DCOE18  DCOE18

( DCOE18)

 これもまた非常に微妙な違いですが、写真の矢印にある様に、ななめの補強はなくなっていますが、矢印の部分に補強と思われる飛び出した部分がまだあるのが最も大きな違いです。また、トップの蓋の形状も飛び出しがある部分が異なり、後述の最も新しいキャブのガスケットとは違う旧タイプのガスケットを必要とします。

<第三世代>

DCOE18k  DCOE18k

( DCOE18k)

 第三世代になりますと、補強と思われる飛び出した部分がなくなります。また、トップの蓋の形状も異なり、前述の古いキャブのガスケットとは違う新タイプのガスケットを必要とします。nomi号はこのタイプのキャブです。

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